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欧州銀行監督機関委員会が米国、スイス金融監督機関の同等性原則に関する技術的助言を発表

 

Last Updated:March 6,2021

 EU欧州銀行監督機関委員会(Committee of European Banking Supervisors:CEBS(筆者注1)は、2月22日に第三国であるスイスおよび米国の金融監督機関の「銀行・投資グループ」および「金融コングロマリット」に対する「同等性評価(equivalence assessment)原則」に基づく監督手順の調整に関する技術的助言(technical advice)についてのプレスリ・リース”CEBS and CEIOPS pablish joint tehnical advice on the equivalence of supervisory arrangements in Switzerland and United Staes”を発表した。

 プライバシー保護や最近では環境問題等でも良く使われる言葉である「同等性評価(equivalence assessment)」は、EU加盟国と第三国との各種ビジネス、人権問題等で使われる概念であるが、金融大国である米国やスイスにおける金融監督面での同等性について2つのEU指令に基づき査定した今回の助言は欧州委員会に対するものである。

 その内容はわが国の金融関係者向きではあるが、EUの研究上参考となるものでありまた、金融庁や日本銀行以外ではあまりわが国で紹介されていない内容なのであえて取り上げた。なお、今回の助言は米国、スイスの国別にまとめられており、筆者も本文を読んでみたが内容としてはすでに知っている内容が多くやや期待はずれであった。

 したがって、本ブログではプレス・リリースの内容および各助言の構成のみ記載し、本文の内容紹介は省略する。
 ただし、両国の金融監督機関の実践活動の実態・特性やバーゼルⅡ対応等の分析はさすがである。関心のある向きは下記のURL等に基づき正確に読んでほしい。

1.CEBSのプレス・リリースの内容
(1)本日(2008年2月22日)、欧州銀行監督機関委員会および欧州保険・企業年金委員会( Committee of European Insurance and Occupational Pensions;CEIOPS)は、2007年6月の欧州委員会からの諮問すなわちEUの(1)資本要求指令(Capital Requirements Directive:CRD (筆者注1-2)、(2)金融コングロマリット指令(Financial Conglomerates Directive:FCD )に定めるスイスおよび米国の金融監督機関が「銀行・投資グループ」および「金融コングロマリット」に対し監督の強化や補正目的を十分に実行しているか否かについての技術的助言(一般的に「同等性評価(equivalence assessment)という」を回答として取りまとめ共同公表した。

(2)本助言に基づき、CEBS等のレベル2委員会は、第三国の金融監督機関の監督内容の調整のため、現行のガイダンス(スイスに関するもの:2004年7月6日公布 )、米国に関するもの:2004年7月6日公布))の見直しを行う。
個々の銀行・投資グループまたは金融コングロマリットの評価にあたり、第三国に本拠を有する親機関とともに加盟国の金融監督機関はレベル2委員会 (筆者注2)が定めた前記ガイダンスを考慮しなければならない。

(3)欧州委員会からの助言要請に応えるため、CEBSおよび金融コングロマリットに関する暫定作業委員会(Interim Working Committee on Financial Conglomerates;IWCFC)は監督内容に関する質問の公式化に関し緊密に機能し、また関係するスイスおよび米国の金融監督機関からの情報収集の完成にあたり調整を行い、併せてCEBSおよびIWCFCのメンバー国の経験内容の調査を指揮した。

(4)2004年の2国向けの両ガイダンスの改訂が主な目的であることから、CEBSおよびIWCFCの評価作業は、(ⅰ)CRDの採用から結果的に得られる監督強化に伴う変更点、(ⅱ)2004年のガイダンスに基づく米国やスイスの金融監督機関における監督体制や実践内容の変更点、および(ⅲ)EUの金融監督機関が米国やスイスの金融監督機関との共同活動経験を通じて得たこと経験から得られた内容に的を絞った。(筆者注3)

(5)今回のCEBS等の実際の分析結果は、米国とスイスという第三国の監督機関によりチェックを受けている。
 米国の5つの金融監督機関(FRB、OCC、貯蓄金融機関監督局(OTS)、ニューヨーク州銀行局(NYSBD)、証券取引委員会(SEC))およびスイスの2つの金融監督機関(スイス連邦銀行委員会Eidgenössische Bankenkommission:英文表示ではSFBC)、連邦民間保険局:FOPI)は、本助言に記載したとおり、限定的警告を要すると判断した。また、本助言に記載したとおり、それ自身金融監督機関ではないが全米保険長官会議(National Association of Insurance Commissioners:NAIC)のモデル・フレームワークの同等性評価に関しての記述は可能でなかった。

(6)CEBS委員長ケアステン・ヨッホニック(Kerstin af Jochnick)およびIWCFC委員長アーノルド・シルダー(Arnold Schilder)は世界的な金融監督の同等性の重要性を認め、また監督機関により行われた今回の評価の結果を歓迎する。

Kerstin af Jochnick 委員長

Arnold Schilder 委員長

2.スイスおよび米国に関する助言内容の項目
(1)スイスの金融監督機関に関する助言内容項目
 ①要旨
②第1章 本助言の背景
 1.1 2つのEU指令に基づく執行行為の合理性と過去の経緯
 1.2 IWCFCおよび CEBSに対する欧州委員会の助言要請
③第2章 査定方法
 2.1 第三国(スイス)の金融監督機関に対する質問の実行
 2.2 EEA(欧州経済地域)の金融監督の実態調査
 2.3 分析およびEUとの比較
 2.4 事実の確認(Fact checking)
④第3章 分析
 3.1 第三国における監督強化および補正に関する査定基準ならびに対象項目
 3.2 スイスの金融監督システムの概観
 3.3 2007年末時点におけるスイスの金融監督機関の監督面での調整内容
 3.4 金融監督機関の検査活動
⑤第4章 スイスの金融監督機関への勧告と結論
 4.1 SFBC
 4.2 FOPI

(2)米国の金融監督機関に関する助言内容項目
 ①要旨
②第1章 本助言の背景
 1.1 2つのEU指令に基づく執行行為の合理性と過去の経緯
 1.2 IWCFCおよび CEBSに対する欧州委員会の助言要請
③第2章 査定方法
 2.1 第三国(米国)の金融監督機関に対する質問の実行
 2.2 EEA(欧州経済地域)の金融監督の実態調査
 2.3 分析およびEUとの比較
 2.4 事実の確認(Fact checking)
④第3章 分析
 3.1 第三国における監督強化および補正に関する査定基準ならびに対象項目
 3.2 米国の金融監督システムの概観
 3.3 2007年末時点における米国の金融監督機関の監督面での調整内容
 3.4 金融監督機関の検査活動
⑤第4章 米国の金融監督機関への勧告と結論
 4.1 Fed/OCC
4.2 OTS
4.3 NYSBD
4.4 SEC
4.5 NAIC

3.EUの金融コングロマリット監督に関するガイダンス等
 次のサイトは実務的面の詳しい解説である。併せて読む必要がある。
(1) 欧州金融コングロマリット委員会が発刊したスイス内の金融機関の監督のためのEU金融監督機関向けガイダンス)「スイスの金融監督とその同等性の補正に向けたガイダンス」
(2) 欧州金融コングロマリット委員会が発刊した米国内の金融機関の監督のためのEU金融監督機関向けガイダンス)「米国の金融監督とその同等性の補正に向けたガイダンス」
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(筆者注1) 欧州銀行監督機関委員会(CEBS)は、欧州連合(EU)における銀行規制と監督に関する助言と調整を担当する独立機関であった。 2004年に欧州委員会によって設立され、2010年12月末まで機能した。銀行監督当局と欧州連合の中央銀行の上級代表で構成されていた。 その役割は次のとおりである。

①特に貸付活動の範囲における措置案の作成に関して、欧州委員会が後者の要請に応じて、または独自のイニシアチブで行動するよう助言する。

②拘束力のないガイドライン、推奨事項、基準を発行することにより、EU指令の一貫した実施と金融監督慣行の収束に貢献する。

③情報交換や訓練プログラムを含む監督面での協力を改善する。

④高品質かつ共通の監督報告基準(COREPおよびFINREP)の開発に貢献する。

 2011年1月1日に欧州銀行監督局(EBA)が新たに設立され、CEBSの継続的な任務と責任を引き継いだ。

(筆者注1-2) CRDⅣに関しては、JETROの解説 「外資に関する規制」中の「資本金に関する規制」に詳しい。

(筆者注2) レベル2委員会等EUにおける第三国の同等性評価に関して、会計基準に関するものであるが次の論文が参考となろう。
「EUにおける会計基準の同等性評価とわが国の制度的対応」京都大学大学院経済学研究科教授 藤井秀樹氏:http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~chousa/WP/j-52.pdf


(筆者注3) EUの国別外資規制に関する解説としては次のレポートが参考となる。
 ジェトロ「EUの外資に関する規制(ドイツ)」:https://www.jetro.go.jp/world/europe/de/invest_02.html

「同(フランス)」:https://www.jetro.go.jp/world/europe/fr/invest_02.html 

〔参照URL〕
CEBSのプレス・リリース原文
https://www.eba.europa.eu/cebs-and-ceiops-publish-joint-technical-advice-on-the-equivalence-of-supervisory-arrangements-in-switzerland-and-united-states
CEBSおよびCEIOPSの米国金融監督機関に関するEU指令についての同等性助言
スイスに関するもの:https://www.iasplus.com/en/binary/europe/0802swissequivalence.pdf
米国に関するもの:https://www.iasplus.com/en/binary/europe/0802usaequivalence.pdf
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