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ルクセンブルグ大公国の金融機関における法令遵守課題への取組に関する影響度調査結果

 Last Updated:March 12,2021

 ルクセンブルグ銀行協会は、監査法人トーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)の協力の下に標記調査を行い、2006年12月5日にその内容を公表「ABBL,DELOITTE-Reglementation:Quel impact sur le secteur financial a Lexembourg, Luxembourg, Deloitte,2006」した。詳細編と要約編とで構成されているが、今回のブログでは要約編を元に紹介する。なお、関心のある向きは詳細編(全28頁)を参考とされたい。

 これらのテーマについては、わが国の業界新聞等でも随時取り上げられているが、人口は約465,000人という極めて小国ながら、一方で極めて豊かな国であるルクセンブルグ(Grand Duchy of Luxemburg)(筆者注1)の金融機関がこれらの遵守項目について過去および今後3年間どのように点に重点を置きながら取組んでいるか、また膨大なIT投資や法令遵守にかかる費用の評価等、国際化するわが国の金融機関の今後を見据えた経営面の研究材料として参考になるものと判断し、取り上げた。

 なお、今回の調査対象項目として、例えば「バーゼルⅡとEU資本要求指令(the Capital Requirements Directive:CRD)(筆者注2)、「EU投資信託指令Ⅲ(Undertaking for Collective Investment in Transferable Securities :UCITS Ⅲ)」(筆者注3)、「貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令(Council Directive 2003/48/EC )」(筆者注4)、および「金融商品市場指令(MiFID)」(筆者注5)等といったEU加盟国固有の課題が含まれている。EU加盟国の金融機関が取組んでいるこれらの課題についての概観・改正経緯・関連法令を理解するには「EurActiv .com」サイトの「financial services」が良く整理されているので、関心のある向きは併せて参照されたい(わが国では一覧性をもってこのレベルに達している資料はない)。

1.調査目的
 過去3年以上にわたり、ルクセンブルグの金融部門はその堅確性の強化を目的とした新たな規制強化のうねりを経験した。銀行等信用機関や金融部門の専門家はこれらの新たな法令遵守要求に対し、①組織的な対応、②IT技術力等の強化、③資源や投資の結集を行わねばならなかった。したがって、金融機関はこれらの規制強化要求に対する率先性を優先し、また要員の新規採用、新手続き、新システムといった繰り返されるコスト負担を負った。
本調査は、これらの金融機関における法令遵守にかかる全体的な影響度を測定することにある。

2.調査対象金融機関および個人
2006年3月時点でルクセンブルグに拠点を有する153金融機関およびその他金融専門家を対象に調査を行い、うち37機関等(30機関はルクセンブルグ銀行協会会員銀行、その他の金融機関の従業員の10%に当る7名)から回答を得た。個人の意見も十分に配慮するとともに、匿名の調査を確保、調査対象金融機関の規模、業務の種類、本拠地国について区分を行った。

3.調査対象項目
 本調査では以下の8項目に限定した。
(1)マネーローンダリングとの戦い(Anti-Money Laundering:AML)
(2)適正資本(バーゼルⅡとEU資本要求指令)
(3)EU投資信託指令Ⅲ
(4)貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令(UCITS Ⅲ)
(5)法令遵守機能の適用(The ≪Compliance≫Function Implementation)
(6)企業改革法(Sarbanes Oxley Act:Sox)
(7)新国際会計基準(IAS/IFRS)(筆者注6)
(8)金融商品市場指令(MiFID)(筆者注7)

4.本報告の構成
第一部:銀行における高いレベルの取組内容を調査した。
第二部:前記3.の各項目について金融機関の貢献度について調査した。
第三部:遵守内容について、金融市場たるルクセンブルグの今後について予測される法令遵守による影響とともにその経費負担について回答者から意見を集約するという質的な分析調査を行った。

5.調査に基づく分析結果
(1)過去3年および今後3年間の投資額
1機関あたりの過去3年間の平均投資額は、440万ユーロ(約6億8,200万円)でうち人事採用投資額はその約10%の47万1,000ユーロ(約7,300万円)である。さらに今後3年間に要する費用は過去3年間分の約半分にあたる201万5,000ユーロ(約3億1,200万円)と予想している。
(2)法規制に関する優先課題は次の降順である。
①AML対策
②法令遵守機能の適用(高度な知識と実行力を持った役職員教育等)
③貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令
回答者の60%はこれらにかかる費用は地方予算でまかなうとしている。
(3)法令遵守で最も経費がかかるのは次のものとしている。
①新会計基準対応
②バーゼルⅡ対応
③貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令
(4)非技術的な計画(UCITSⅢおよび法令遵守機能の適用)
構造的な対応課題として毎年度負担すべき経費であり、金融機関に高いレベルの影響を与える。
(5)AML対策は中規模金融機関にとって極めて重い費用負担となっている。
(6)AMLとそれに対する消費者の理解は、消極的なイメージを誘発するがゆえに最も銀行がその強化に取組んでいる。
(7)バーゼルⅡ対応は、ルクセンブルグの上位10金融機関が頻繁に投資を行っている。
(8)法規制の遵守のためには専門要員の増加が必要となり、3年前に比べ87%増となっている(法令遵守専門要員として1行平均4名の正職員の追加)。
(9)MiFID対応は、銀行の遵守計画のうち現在・今後で最も注目すべき課題である。
(10)ルクセンブルグにおける現在の法規制・監督に対する見方
①3分の2の銀行は金融センターとして同国は他のEU加盟国と比べ、過剰規制に陥っていないと見ている。しかし、回答者の63%はEU以外の国と比べ規制が厳しいと見ている。
②同国は、アイルランドやスイスに比べ金融機関にとって不利益さはないと見ている。
③大銀行は、規制強化計画はビジネスの開発に活用可能と見ている。
④68%の銀行が、AMLが最も規制に関してコストをかけるべきと考えている。
⑤3分の2の銀行が、銀行の機密保持(bank secrecy)は、最も厳格な法規制に関し両立しがたいと見ている。
(11)今後の法規制の在り方
①全回答者が法規制に関する要求に対応する費用は、今後3年以上増加すると見ている。
②62%の銀行がこれ以上の法規制は不要と見ている。
③法規制についてEU加盟国との協調については、87%、EU以外の国とは67%が必要と見ている。
③回答者の88%は、規制強化の影響は金融部門の集中化が今後進むと見ている。
④61%の銀行は、ルクセンブルグで提供されるべき金融商品やサービスは特にプライベート・バンキング分野で発展すべきであろうと見ている。
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(筆者注1)ルクセンブルグの2005年の1人当たり国内総生産(GDP名目)は80,288米ドル(約924万円)で依然世界第1位である。また2006年3月の失業率はやや高くなっているが4.8%(EU加盟国平均が8.1%)である。ちなみに、米国CIAの2003年調査によるとわが国のGDPは世界第15位(34,510米ドル:約397万円)である。

(筆者注2)EU資本要求指令(the Capital Requirements Directive)は、2006年6月14日に採択されたもので、2007年1月1日施行、全面施行は2008年とされている。この指令の採択の背景には2004年6月に採択された「Basel Ⅱ」があることは言うまでもない。これを受けて欧州委員会は2004年7月に域内の全銀行、信用機関(credit institution:CI)、投資会社を対象とする「新資本要求指令」案を策定していた。本指令の特徴は、①リスク問題により機敏な内容になっており、金融機関は3つの対応レベルを選択できることとなっている。②小規模銀行や小規模金融会社のコスト負担に配慮するためEUは他地域と異なり実施を遅れさせる、③破綻リスクに関するモラルハザードの懸念に関しては、保険会社が中央銀行により最終的に保護されるの対し、保険会社や銀行に部分的に転嫁させうるとするものである。

 その後のCRDの改正経緯をJETROの解説から抜粋する。

銀行の資本規制

 EUは2013年6月、金融危機の再発を防ぎ、国際金融システムのリスク耐性を高めることを目的に改定された新しい国際決済銀行(Bank for International Settlements)の自己資本比率に関する国際統一基準(BIS規制)「バーゼルⅢ」の本格導入に向け、「CRD Ⅳ(資本要求指令Ⅳ)」と呼ばれる資本要件パッケージを採用した。CRD Ⅳは、金融機関および投資会社の財務健全性の監督を目的とする欧州議会・理事会指令2013/36/EUおよび、財務健全性の要件を規定する欧州議会・理事会規則575/2013で構成され、2014年1月に適用が開始された。

 指令2013/36/EUは、「バーゼルⅡ」に準拠した2つの先行指令(欧州議会・理事会指令2006/48/ECおよび2006/49/EC)を一本化するとともに、財務健全性の確保に向けた域内共通の要件を定めている。規則575/2013は、加盟各国が同指令を国内法に反映する際にばらつきが生じることを防ぐため、拘束性の高い、より直接的なルールを規定しており、域内の「シングル・ルール・ブック」としての役割を果たす。

 EUでは、CRD Ⅳの対象を「バーゼルⅢ」が定める国際的に事業を展開する銀行だけでなく、域内で営業するすべての銀行と投資会社に広げている。また、金融機関の健全性維持に向け、資本のほか、流動性やレバレッジ比率の要件に重点を置くほか、ボーナスの上限を年間給与と同額とする賞与規制や、リスク管理の強化に向けたコーポレートガバナンス(企業統治)に関するルール、複数の司法管轄にまたがり事業を展開する金融機関の営業活動の透明化に関する要請、一連の資本バッファーの定義などを盛り込んでいる。欧州委員会はCRD Ⅳの施行に当たり、「シングル・ルール・ブック」を補完・強化するため、規制技術基準(Regulatory Technical Standards:RTS)や実施技術基準(Implementing Technical Standards:ITS)を定めている。これらは、CRD Ⅳに関する委任規則や実施規則として発行されている。

 さらに、CRD Ⅳを改正する資本要件パッケージ「CRD Ⅴ(資本要求指令Ⅴ)」が2019年6月に発効した。CRD Ⅴは、欧州議会・理事会指令2019/878および欧州議会・理事会規則2019/876からなる。指令2019/878により、EUで活動する大手外資系金融グループは、EU域内に持株会社を設置し、グループでの健全化要請を満たすことが求められる。また、報酬に関するルールの追加規定や適用免除、自己資本要件等の調整・明確化が図られている。加えて、自己資本要件等の健全性の確保要請に関して、規則2019/876が、更なる比率規制や追加要件を導入している。(以下、略す)

 なお、EUの金融監督規制に新体制に係る指令は本指令と「信用機関における新ビジネスの採用と事業の継続に関する指令(Directive 2006/48/EC)」 (2006年6月14日付)である。後者は加盟国における異なる法律による障害を排除することで信用機関の域内における自由な設立やサービスの提供を可能とすることを目的とするものである。

(筆者注3) EU投資信託指令Ⅲは、正式には2001年1月22日に採択され、2004年2月施行の「Directive 2001/107/EC」(Official Journal L 041 13/02/2002)である。本指令(最初のUCITSは1985年)の目的は、越境的投資信託(across border collective investment fund )による信託規模の拡大並びにEU全体としての投資の潜在能力の最大化を図るとするものである。

(筆者注4)本指令はEUの住民が越境による貯蓄収入を得た場合、脱税を阻止する目的で加盟国間に自動的にその情報交換を行う法律制度の導入を義務付けるものである。2005年7月1日施行されることになっていたが、当初から対応できなかったEU加盟3カ国(オーストリア、ベルギー、ルクセンブルグ)については開始から情報交換に代る措置として「源泉徴収」を適用する。
また、英国とオランダの属領(dependent territories)や関連領(associated territories)並びに特定のEU外の第三国については情報交換または源泉徴収を課すことになっている。
なお、英国の例で見ると「2003年財政法(2003 Finance Act)」において、財務省に海外居住者に関する情報収集に関する規則等の制定権を定めている。
http://www.hmrc.gov.uk/esd/paper-11-final.htm

(筆者注5)「the Market in Financial Instrument Directive :MiFID」は、2004年4月に採択された(2004/39/EC)。本指令は1993年に採択された「投資サービス指令(Investment Service Directive :ISD)」に代るものとして採択されたが、その目的は①投資家がEU域内において一層容易に越境投資を行えるようにする、②証券会社がEU域内の単一免許を得る際の障害を除去する、③EUにおける証券取引所間の競争を促進し取引き分野を拡大する、④EU全域における投資家・サービスの利用者の適切な保護等である(詳細は日本証券経済研究所大橋 善晃氏「EU の「金融商品市場指令(MiFID)と最良執行義務」を参照されたい。)。なお、当初EUは2006年4月30日までに国内法化を求めていたが、実施細則案の公表が遅れたことなどからEUは2006年4月27に修正指令(2006/31/EC)を発出し、前記期限を2007年11月1日に延長している。

(筆者注6)国際会計基準(IAS)および国際財務報告基準(IFRS)を巡るわが国の金融監督・司法機関、経済・金融団体等の意見・対応は監査法人、研究者等から多くの報告がなされており、それぞれ参照されたい(しかしながら、長期間にわたりかつ国家間の多くの調整がなされてきた問題だけに全体的な動行を鳥瞰できる資料がないのが素人の筆者としては気にかかる)。

(筆者注7)EUのCESRは2006年12月15日付けで「The Passport under MiFID」と題するパブリック・コンサルティング・ペーパーを発している。その内容は、①MiFID3章「投資会社の権利」31条(投資サービス・活動に関する自由性)、32条(支店の設置)に関する通知手続き、②越境投資活動に関する効率的かつ継続的な監督を保証するのに必要な母国および受入国間の今後の協調についての共通的な取組についてである(前記筆者注5で紹介した大橋氏の論文ではMiFIDの31条は「実施期限」、32条は「指令の宛先」なっているが、これは誤りではないか)。意見の提出期限は2007年1月31日である。

〔参照URL〕
http://www.abbl.lu/informations/actualites/

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