スキップしてメイン コンテンツに移動

EU議会が犯罪組織とテロ資金の送金規制に関する規則草案を支持票決

 

Last Updated:Febuary 21,2022

本ブログは2011年9月21日に補筆・改訂した。

 EU議会は、7月6日に海外送金を行う金融機関やWestern Union(筆者注1)といった国際送金専門会社等に対し、EU加盟国以外からの送金者の氏名や住所、口座番号と言う識別情報を含まない場合は、送金拒否を義務付ける規則草案につき支持投票した。現状、これらの金融機関等は仕向銀行名は知っていても送金依頼人の氏名等は常に認識しているわけではない。

 また、規則草案はEU加盟国間の送金については口座番号のみ要求しているが、仮に顧客につき疑わしい場合は、3営業日以内に仕向銀行から送金者の氏名、住所についての情報を得ることが出来るとするものである。

 本規則に基づき集められた送金人の情報は、5年間の保存が義務化され、これら仕向金融機関等の監督機関は反マネロンやテロ資金についての調査活動が可能となる。最終的には、テロリスト自身や資金の流れを追跡することで捜査、起訴に寄与することが目的である。この規則草案自体はEUの「テロ阻止に関する行動計画」の一部である。

 なお、EUのマネー・ローンダリング対策については、2005年欧州議会および欧州連合理事会が決定した「EUの第3次マネーローンダリング・テロ資金供与規制にかかる指令(2005/60/EC)」)および「EUにおける資金の出入の管理に関する規則(1889/2005)」等のEUの公式サイトを参照されたい。
(筆者注2)

1.今後の規則草案の正式承認手続き
 EU蔵相会議において今後 可決することになるが、本規則草案自体マネー・ローンダリング対策における国際協調機関である「金融活動作業部会(Financial Action Task Force on Money Lauderig:FATF)」(筆者注3)の電信送金に関する特別勧告Ⅶ(SR Ⅶ)に基づくものであり、FATF修正解釈注によると2006年12月には実行に移されるべきものとされている。

2.規則草案の主な内容
(1)本規則制定の目的(第1条)
 マネー・ローンダリングやテロ資金の資金トレースを可能とし、国際的送金阻止やそれらに関する捜査を目的とする。
(2)定義に関するもの(第3条)
 適用の対象となる、テロ資金、マネー・ロンダリング、支払人(個人・法人を問わない)受取人(個人・法人を問わない)、送金サービス取扱者(payment service provider)、送金サービス仲介業者(intermediary payment service provider)等の定義。
(3)対象取引の適用除外(第2条、第5条)
クレジットカードやデビットカードその他これに類する商取引すなわち本人識別情報があり、後日のトレースが可能なものは除く。なお、EU域外からの1,000ユーロ以下の送金についてはマネロン阻止等の観点から本規則の適用範囲を限定できる。サービス・プロバイダーの情報保存期間は5年間である。
(4)EU域内の国外送金の場合の扱い(第6条)
後日トレースが可能となる支払人口座番号やその他ID情報のみの情報添付でよい。ただし、支払人、受取人のサービス・プロバイダー間では3営業日間は支払人の氏名、住所など完全な情報の保管が義務化される。
(5)EU域内の支払人からの域外の受取人への送金については完全な支払人情報(氏名、住所、口座番号の代りに出生年月日・出生地や公的ID番号も適用可)の添付が義務付けられる。(第4条、第7条)
(6)受取人のサービス・プロバイダーにおける支払人情報を欠く場合の調査に関する効果的手続きの策定義務(第8条)
(7)支払人情報を欠く場合の受取人に対するプロバイダーの本規則に基づくサービス・プロバイダーの送金取扱い拒否義務。(第9条)
(8)送金サービス仲介プロバイダーの受信情報の保存義務(第12条以下)
(9)サービス・プロバイダー等の監督機関、法執行機関との協力義務(第14条)
(10)EU加盟国は、2006年12月31日までに本規則の違反行為の場合の適用する罰則を制定するとともに、適用を確実にするために必要な手続きを定めたうえ、通知、施行しなければならない。

**************************************************************************
(筆者注1)Wentern Unionは個人間の国際送金専門会社で米国企業である。わが国ではスルガ銀行が窓口になっているが、同サービスのメリットは、送金の受取人が銀行口座を有しなくても余良い点があげられる。
http://www.surugabank.co.jp/surugabank/01/05/11/0105110200.html

(筆者注2) 2011年1月欧州委員会は「加盟国におけるEU指令(2005/60/EC)の適用に関する最終報告(European Commission Final Study on the Application of the Anti-Money Laundering Directive)(COM(2012) 168 final, Report on the application of Directive 2005/60/EC on the prevention of the use of the financial system for 
the purpose of money laundering and terrorist financing, 11.04.2012)を公表した。

(筆者注3) 1989年アルシュ・サミット経済宣言を受けて設立された政府間機関である。2022年2月現在39カ国、オブザーバー国(オンドネシア)、準会員Task Force等9機関、オブザーバーの25国際機関(アジア開銀、国連、ユーロポール、IMF、世銀等)より構成されている。
Members and Observers - Financial Action Task Force (FATF) (fatf-gafi.org)
〔参照URL〕
1.2005年7月26日に欧州委員会が提案した草案(Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on information on the payer accompanying transfers of funds)
http://www.fatf-gafi.org/document/52/0,2340,en_32250379_32237295_34027188_1_1_1_1,00.html#FSRBs
2.EU議会の投票結果の解説記事
http://www.fatf-gafi.org/document/52/0,2340,en_32250379_32237295_34027188_1_1_1_1,00.html#FSRBs

************************************************************

Copyright @ 2006 芦田勝(Masaru Ashida ). All rights reserved.You may display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

コメント

このブログの人気の投稿

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...