スキップしてメイン コンテンツに移動

米国SECが企業改革法(SOX法)第404条の内部統制要件実現の具体的行動計画を公表

  

Last Updated:Febuary 21,2022

 最近時、監査法人サイトや金融専門雑誌等において米国企業改革法(the Sarbanes-Oxley Act of 2002)の解説記事が頻繁に出ている。同法が制定された背景は言うまでもなくエンロン事件等傷ついた証券市場の信用の建て直しであるが、その主な内容は、①監査(内部・外部)の独立性強化、②経営社の責任の厳格化・明確化、③情報開示に強化等多岐にわたっており米国の公開会社(public company)に適用される。
すなわち、わが国の企業にとって米国の証券取引委員会(SEC)に登録または登録予定している企業の子会社や支店には同法が適用されるし、また第404条「経営者による内部統制の評価」については今後わが国の法令・基準等に取り入れられることは間違いないといえる。

 去る5月17日にSECは、①公開会社のための内部統制遵守ガイダンスを公開会社会計監視委員会(the Public Company Accounting Oversight Board;PCAOB)と共同で策定する(これらの背景としては最近数ヶ月間にわたる投資家、公開会社、監査役等から大規模なヒアリングやコメントを元に分析している)、②とりわけヒアリングで指摘された最大の課題は中小企業(後記GAOの資料では資本金7億ドル以下)のおける対応が時間的に間に合わない、対応費用の負担問題等から遵守期限の延期問題や上場廃止を意図する企業も出ている(筆者注1)ことなども踏まえ、今後の行動計画を公表したので概観する。

 なお、SOX法の今回取り上げた第404条問題は一連の逐条的なSEC規則の制定作業の一部である。その長期にわたる作業の全体像を鳥瞰する資料があれば筆者としても勉強したい。

1.5月10日のSEC円卓会議と最近数ヶ月間の第404条の運用と効果についての各方面からのヒアリング状況
(1)SOX法成立2年目を迎えてこれまでの関係業界・公的機関からの意見の集約のための円卓会議の開催
 5月10日に開催されたが、それに先立って5月1日までに広く関係者から内部統制に関する報告および監査規定に関し意見を求めており、この集約結果も含め円卓会議で議論が行われた。(筆者注2)(筆者注3)(筆者注4)
(2)4月23日に公表された「小規模公開会社におけるSEC諮問委員会最終報告(Final Report of the Advisory Committee on Smaller Public Companies to the SEC )」(筆者注5)
(3)4月に連邦議会行政監査局(GAO)が取りまとめた「SOX法の小規模公開企業への適用ににあたり検討すべき重要項目に関する考察結果(Sarbanes-Oxley Act:Consideration of Key Principles Needed in Addressing Implementation for Smaller Public Companies)」(筆者注6)

2.今後SECが取り組む行動計画
(1)公開会社の経営者向けガイダンスの策定の準備
 まず第404条に関する経営者向けガイダンス草案「Concept Release」の発行と同時にすべての公開会社が必要かつ関心を持つところのSECが最終的に目的とする経営面の査定経営手順案についてのパブコメの募集を行う。また、SOX法第404条(a)項に定める①経営者による査定時における社外監査役の適切な役割 、②SECが関心を持つ第404条(b)項に定める外部監査役による監査証明の代替性についても意見を求める。
(2)SECは中小企業の法対応を支援 するため、従来からCOSO(the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission) (筆者注7)の活動を支援してきたが、財務諸表の内部統制に関し、すべての公開会社が今後策定するガイダンスに基づき適宜対応してくれることを期待する。
 また、SECとして財務諸表に基づき経営者がいかに内部統制を図るかについてガイダンスの策定を行うことで中小公開会社が有用的に第404条(a)項の査定を完全なものに出来るようCOSOの追加的ガイダンスの範囲についても考慮中である。
(3)SECに出されたコメントについてみると、第404条の経営者の査定につきSECが意図した経営者からのトップダウンであり、完全に正確なリスク判断に基づくものではない。今後策定するConcept Releaseに対して寄せられた意見・情報および予想されるCOSOガイダンスから、財務諸表に基づく内部統制についてトップダウンでありかつリスク判断の実行を可能とする経営者向けガイダンスを発刊する予定である。
 本ガイダンスは、404条報告につき加速的対応免除会社(non-accelerated filers)(筆者注8)および小規模公開会社の対応を確実にするため、SECは当該ガイダンスにつき企業の規模や個々の企業の実情に応じられるよう配意する予定である。

3.PCAOBの監査基準の改正
 PCAOBは、本年5月17日に「財務諸表の監査時における財務諸表に対する内部統制―監査基準第2版―の改正案」を公表した。この内容はSECの提案を受けたものであり、主な改正点は次の通りである。なお、SECはPCAOBの監査基準第2版が公益ならびに投資家保護にとって一貫性のあるものとなることを保証するため、PCAOBと緊密な連携作業を行う。
(1)監査人が統合的監査において詐欺的要素に関するリスクや重大な過ちに的を絞った監査を行うことを保証するよう追い求めること。
(2)2005年5月16日付けでPCAOBが公表したガイダンスに含まれる重要な概念を組み込む。
(3)仮にあるとすれば、内部統制の効率化に向けた会社の手順の評価に対する監査人の役割を取り上げ、明確化する。

3.PCAOB検査プログラムに対するSECの監視内容等
 2006年5月1日に、PCAOBは「2006年検査目標」は監査人が監査基準第2版に基づき(1)費用削減効果的な効果をあげているかどうか、②監査人の活動が2005年5月、11月に発表したガイダンスに準拠しているかどうか、である旨発表した。SECのPCAOBに対する監視の一環として、SECの要員はPCAOBの検査プログラムも含め運用内容を監視する。とりわけ、2006年のPCAOBの検査完了時において、SECの要員はPACOBの検査において監査法人に対して前記声明の実現につき適用を積極的に働きかけたかどうかにつき検査を行う。
(2) 加速的対応免除会社(non-accelerated filers)に対する遵守期限の延期
SECは加速的対応免除会社およびその監査人に対し、①近々SECが策定しようとしている経営者向けガイダンスの恩典を受けること、②PCAOBの改正基準第2版の評価・適用の機会を提供するため、加速的対応免除会社に対し404条の対応期限の短期の延期を認める予定である。しかしながら、それらの会社においてもその延期はSOX法第404条(a)項が定める会計年度開始時点または2006年12月16日までに経営者による査定(management assessment)を実施することが前提となる。
******************************************************************************
(筆者注1) 5月17日付けのSECのリリースでも、SEC委員長のクリストファー・コックス(Christopher Cox)は中小企業の経営者や連邦議会の議員から指摘されているSOX法第404条の免除例外はない旨コメントしている。すなわち、投資家保護の観点から公開企業の規模の大小、外国・国内企業を問わないとしている。

(筆者注2)円卓会議の議事録のURL: http://www.sec.gov/spotlight/soxcomp/soxcomp-transcript.txt

(筆者注3)SEC事務局からの論点整理のURL:
http://www.sec.gov/spotlight/soxcomp/soxcomp-briefing0506.htm

(筆者注4) 円卓会議のライブビデオも見れる。
http://www.connectlive.com/events/secicr2006/

(筆者注5) Final Report: Advisory Committee on Smaller Public Companies (sec.gov)

(筆者注6) http://www.gao.gov/new.items/d06361.pdf (全93頁)

(筆者注7) 「COSO内部統制フレームワーク」とは、1992年に米国のトレッドウェイ委員会組織委員会(COSO:the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)が公表した内部統制のフレームワークのことである。今日、事実上の世界標準として知られている。具体的には「要約」「フレームワーク」「外部関係者への報告」「評価ツール」(1992年)、および「『外部関係者への報告』の追補」(1994年)という5分冊からなる文書で、基本的な理論や考え方に加え、内部統制評価ツールなど内部統制の具体的な方法論と枠組みが示された。この内部統制の枠組みが「COSOの内部統制フレームワーク」あるいは「COSOフレームワーク」と呼ばれるものである。
http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/coso.html参照。

(筆者注8) SECは2005年3月2日付けリリースで、2003年6月5日に遵守期限の延期措置を再度延期する措置を行っている(2006年7月15日または7月15日以降に来る最初の財務報告から内部統制に遵守が義務付けられる。)。その対象となるのがnon-accelerated filers(時価総額7,500万ドル以下の公開企業)および外国の非公開証券発行者である。

*******************************************************************

Copyright (c)2006 芦田勝(Masaru Ashida ). All rights reserved.No reduction or republication without permission.

 





コメント

このブログの人気の投稿

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...