スキップしてメイン コンテンツに移動

欧州34カ国の閣僚が障害者に優しい公的ウェブサイト構築に向け再スタートに署名

  

Last Updated: Febuary 21,2022

6月12日にラトビアにおいて、EU加盟国、EU加盟予定国、欧州自由貿易連合加盟国(EFTA)(筆者注1)およびその他の国々の計34カ国の閣僚が2002年6月13日に行った「eInclusion」(筆者注2)決議の要求(2006年半頃までに実行)期限を延期し、2010年までに実行する旨の「eInclusion」目標宣言書に署名した。

 当初の目標設定から約7年後となり、今回の決議を担保する新たな法律の制定も予定されていないため、関係者の中には法的な拘束力のない単に道義的規範ないし同盟国からの圧力による強制しかないという問題指摘もあり、責任者であるEUの「情報社会およびメデイア委員会」委員長のヴィヴィアーヌ・レデイング(Viviane Reding)
(筆者注3)に対する風当たりが強くなると見られている。

1.1999年12月の「eEurope」主導(initiative)の採択
 IT分野における欧州域内での格差および米国との格差を是正し、全ての欧州市民のための情報社会を構築することを目的として、採択された。このイニシアティブは、EUの重要課題である雇用、経済成長および社会の結束を固める上で、重要な政策であると位置付けられており、また、2000年3月にEU加盟国の情報化を阻むさまざまな障害を分析し、以下の10の行動計画が公表された。その7番目が障害者対策である。
(1)デジタル時代における欧州の青少年教育(European youth into digital age)
(2)より安価なインターネットへのアクセス(Cheaper Internet Access)
(3)電子商取引の促進(Acceleration E-Commerce)
(4)研究者及び学生の為の高速インターネット(Fast Internet for researchers  and students)
(5)スマートカード(Smart Cards for secure electronic access)
(6)ハイテク中小企業への支援(Risk capital for high-tech SMEs)
(7)障害者の電子的な参画(eParticipation for the disabled)
(8)オンライン健康管理(Healthcare online)
(9)高度運輸サービス(Intelligent Transport)
(10)オンライン政府(Government online)
 この中では、デジタル技術の発展は、障害者が直面する各種障害を乗り越えるのに大きく寄与するとし、「Design-for-All」というコンセプトを用いた製品の開発をEU加盟国において推進することが計画されていた。しかし、障害者の電子的な参画を可能にする法的枠組みの整備はEU加盟国の間で格差が大きく、またEU市場における製品基準の統一も遅れているなど、欧州委員会の取り組む課題は多いとされてきた。なお、2000年以降のeEuropeのフォローの内容は以下のURLに詳しい。
http://ec.europa.eu/information_society/eeurope/i2010/archive/eeurope/index_en.htm#eEurope_2003

2.「eEurope2002行動計画(アクションプラン)」の採択
 前記2000年3月に発表されたeEuropeに基づく行動計画は、同年6月の欧州理事会において「eEurope2002」として、さらに改訂、具体化され採択された。e-accessibilityでは、eEurope2002の目標である「全ての欧州市民のための情報社会」の実現には、障害を持つ人々が情報技術への(可能な限り)最善のアクセスをすることができるようにすることが不可欠であるとし、W3C (筆者注4)が勧告として公表しているWeb Accessibility Initiative(WAI)のガイドラインの採択するというものであった。

3.2002年決議におけるアクセシビィテイの要件と加盟国の受け止め方
 W3C/WAIガイドラインの「4.優先度2(アクセスできないユーザーが出ないようなチェックポイント)」および「5.適合性レベルのレベルAA(優先度の1および2を満たすもの)」の遵守を求めるものであった。しかし、その後の取組みの前進はほとんど見られず前欧州閣僚理事会の議長国であった英国は全域における436の公共部門サイトの調査を命じ、2005年11月に公表された報告ではレベルAがわずか3%で、AAやAAAを満たした国は皆無であった。今回の34カ国の署名は以上のことが背景にある。また、今回の署名において各大臣は2007年までに「アクセイビィティの標準化と共通的なアプローチに関する勧告」に同意している。
 加盟国の中には今回の決議の対象が「公的ウェブサイト」のみであることは、政府や欧州委員会の設定した目標であり、より広い取組みが必要であるといった意見や障害者のIT分野の格差是正は公的部門の課題より一層高いレベルに位置づけるべきであるとしている。

4.英国におけるe-Governmentと取組みの特徴
 英国の電子政府サイト(www.directgov.uk)をみてすぐに気がつくと思われるが、公的情報の流れのシームレス化を最優先にすべく、政府機関間、政府と民間ビジネス間、政府と市民間(IDeA)、政府と地方自治体間(Info4local)、英国政府と外国政府間の情報の相互運用性を担保すべくe-Government Interoperability Framework(e-GIF)の徹底化を進めている。その1例がe-GIF認可機関(e-GIF Accreditation Authority)である。次の2つのプログラムを運用してその効果向上を意図している。(1)関係機関(外部サービスプロバイダー、教育プロバイダー、製造プロバイダー、中央政府機関およびその代理機関、地方政府、NDPBs(中央省庁の管轄下にない公益法人)、国営医療機関(National Health Service等)に、毎年認可条件を遵守しているかどうかについて検査に入り、その包括的報告書をまとめ、主な概要はウェブサイト上で公開する。(2)技術面から見た認可条件のチェック(相互接続、データの統合、コンテンツ、e-Servicesの アクセス性、ICカード、特定のビジネス分野の6部門を能力調査)するとともに、デザイン、開発・テスト、展開・支援、調達、販売、教育の役割について評価を行っている。なお、これらの機関業務は専門家による有料登録制となっている。(筆者注5)(筆者注6)
*****************************************************************************************************
(筆者注1) EFTAは、現在ノルウェー、アイスランドの北欧2カ国と、スイス・リヒテンシュタインの計4カ国で構成されている。1960年に、イギリス、デンマーク、ポルトガル、ノルウェー、スウェーデン、スイス、オーストリアの7ヶ国で発足した。EUと同じく、EFTAは、加盟国間における貿易障壁 (関税や数量制限)を撤廃し、域内貿易の自由化を目標に掲げている。しかし、EUとは異なり、外部(第三国やその他の国際機関) との貿易については、関税や規則の統一を目指すものではない。つまり、EUが関税同盟に当たるのに対し、EFTAは自由貿易地域である。
EFTAの公式サイト:About EFTA | European Free Trade Association

(筆者注2) 2000年10月17日にEU閣僚理事会(European Council)は新たな情報と通信技術の出現はアクセスできる人間と出来ない人間との間に新たな差別を拡げるという観点から「貧困と障害者の社会からの除外に排除」を目指して『eInclusion @EUプロジェクト』を設置した。
eInclusion@EUのURL:eInclusion@EU - Wave III // ZSI - Centre for Social Innovation

以下、仮訳する。

eInclusion@EU - 第III波:eインクルージョンの監視とベンチマークに向けた選択された側面と活動

eInclusion@EUプロジェクトは、EUおよび加盟国レベルでの「エビデンスに基づく」eインクルージョンおよびeアクセシビリティ政策の発展に貢献することを目的とした調整行動であった。関連する主なアプローチ:*EU全体および国際的にからの政策関連情報およびデータの照合および分析*これらのトピックに関する最先端の合成のプロジェクト準備において詳細な注意を引くべき重要なトピックの特定、関連する利害関係者間の情報に基づいた対話を支援するためのワークショップの開催および促進、および*これらすべてに基づいて、 将来のEUおよび加盟国の政策に情報を提供するための重要なトピックに関する証拠に基づく政策ロードマップの準備である。

eInclusion@EUプロジェクトの枠組みの中でのデータ収集のウェーブIIIでは、3つの課題に関する情報収集に焦点が当てられた。これらは次の通りである。

  • eインクルージョンの分野における首尾一貫した欧州の研究と政策分野(いわゆるERPA)の確立につながる可能性のある国家研究と政策活動。
  • eインクルージョンのベンチマークと監視に向けた国家活動。
  • 最初のデータ収集ウェーブで既に特定されたいくつかのeアクセシビリティ関連のアクティビティの更新。

(筆者注3) http://ec.europa.eu/comm/commission_barroso/reding/index_en.htm
なお、6月11日の閣僚宣言ではICT(Information and Communication Technologies)に取り組む上で最優先課題は国家レベルでの中高年齢労働者に対する労働環境の改善が挙げられている。


(筆者注4) W3C/WAIのガイドライン「Web Content Accessibility Guidelines 1.0」は、障害のある人向けだけでなく、使用者の利用デバイスやツール(デスクトップ、ブラウザ、モバイル、車搭載PC等)を問わず、また利用環境(うるさい場所、暗い場所、手がふさがっている等)を問わず利用できるという目標を立てている。


(筆者注5)英国E-GIF Accreditation Authorityの参照URL:
Home Page - e-GIF Compliance Assessment Service (archive.org)


(筆者注6)e-GIFの管理者向けにその役割と優先課題について図解ガイドがある。
http://www.egifaccreditation.org/pdfs/Manager_Guidance.pdf

〔参照URL〕
http://europa.eu.int/information_society/events/ict_riga_2006/doc/declaration_riga
http://www.out-law.com/page-7005
**********************************************************************:

Copyright (c)2006 芦田勝(Masaru Ashida ). All rights reserved.You may display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

 


コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...