スキップしてメイン コンテンツに移動

EUの電子政府強化に向けた2010年までの行動計画(i2010)が採択・公表される

 


 去る4月25日に欧州委員会が採択した「電子政府行動計画(EU i2010 eGovernment Action Plan)」の概要によると25カ国における行政の効率化(政府機能の近代化)により税収の削減効果は毎年数千億ユーロに達すると見込まれている。

 情報・通信機能の近代化・効率化がキーとなるのであるが、電子インボイス
(筆者注1)(筆者注2)(筆者注3)による公共調達の100%実現により、EU全体で毎年約3,000億ユーロ(約42兆3,000億円 )の経費が浮くと予想しており、すでに加盟国25カ国は2005年マンチェスターで署名を行っている。(筆者注4)

 この署名に基づき、このほど委員会が採択した行動計画は2010年までにすべてのヨーロッパ人が加盟国と提携して明確に利益を理解できるかたちで次の5分野において取り組み目標を達成するというものである


1.いかなる市民も後に残さない:2010年までに性、年齢、国籍、所得ならびに障害の有無に拘らずべての市民がデジタルテレビ、パソコン、携帯電話等広範囲の技術にアクセスできる環境を実現する。

2.効率性の向上:英国の年金プログラムの変革は、公務員の窓口での対面サービスのための時間を50%開放し、その他の業務のための時間的余裕を作り上げた。すべての加盟国は2010年までに「効率性向上における高いレベルの効果」および「行政面の負荷削減」について情報通信技術を使って成し遂げる。

3.電子公共調達(electronic public procurement)の適用:加盟国は2010年までに公的分野のオンライン調達について100%又は少なくとも50%までを実現し、年間400億ユーロの予算節減を可能にする。

4.EU全体にわたる公的サービスへのアクセス可能の実現:加盟国政府はウェブサイトの利用や公的サービスの相互利用における国家電子認証による安全なシステムを確立する点について同意した。この行動計画では2010年までにその実現を見通した。

5.市民の参加権および民主的な決定プロセスの強化:行動計画は、政策決定にあたり国民の効率的政治参加を実現するため、情報通信技術を用いた実験の支援を提案する。

************************************************************************
(筆者注1)「インボイス」は貿易取引において必須とされることから、わが国の専門家(英和辞典、翻訳ソフトも含め)も含め「送り状」と訳すことが一般的である。しかし、これは明らかに誤訳であり、正しくは「請求書」である。すなわち英国の起業者向け(株式会社や個人所業主)政府支援サイトでは顧客向けに「commercial invoice」を発行する場合の内訳項目に関する法的要件を解説しており、また付加価値税(VAT)の登録事業者の場合についても同様に説明している。ちなみにインボイスには次のような種類がある。①commercial invoice(商品の売買時に使用する。商品の明細、支払期日、船積予定、単価、合計等を明記する)、②customs invoice(税関用インボイスで輸出通関時に申告用に使用する)、③proforma invoice(見積書と同じ役目を持つもので、輸入相手国が事前の輸入許可や輸入認可などを義務付けている場合に、輸出車が買い手に同インボイスを事前に送り、輸入国政府の輸入許可を受けるのが目的)、④tax invoice(国内取引で消費税、物品税など中間間接税がかかる場合に使用する)、⑤shipping invoice(船便や航空便の出荷時に貨物代金以外にかかる費用の請求を買い手に行う際に使用する)。
 電子インボイスは、これらのインボイスを従来の紙ベースから電子署名に基づく電子書類をインターネット経由で税関、買い手など送付するとともにファィリングするもので電子商取引化において欠かせないものである。

(筆者注2)付加価値税 (VAT)は、品物やサービスの公的または私的な消費に課される税をいう。流通チェーンや生産のすべての段階で徴収され 、各段階で加えられる価値に基づいて国に支払われるため、「付加価値税」という名前がついている。付加価値税は一般的に、課税対象となる事業者によって支払われなければならないが、各事業者は、原則的に、販売する時に付加価値税を課し、原則的に、購買する時に支払う付加価値税額を差し引く権利がある。結局、この税金は、購入する時に付加価値税を差し引くことのできない「最終消費者」が負担する間接税である。

(筆者注3) EUにおいてVATの請求書に関する加盟国間の規則の統一化と電子化に対応するため、閣僚理事会指令(2001/115/EC)が2004年1月1日付けで発効している。そこでは請求書の発行者や内容が真正であることを保証するため「デジタル署名(電子署名ではない)」又は「EDI(電子データ交換)」の方法が定められている。
http://europa.eu.int/eur-lex/pri/en/oj/dat/2002/l_015/l_01520020117en00240028.pdf

(筆者注4)欧州委員会が公表したEU加盟国における電子政府の経済的効果の例を見ておく。イタリアでは、2003年中にパソコン購入にかかる費用が電子公共調達の導入により平均34%削減し、それまでの間に32億ユーロ(約4,512億円)の経費節減を実現した。またポルトガルでは、電子公共調達により30%の経費削減を実現した。

〔参照URL〕
1.ニュース・リリース:http://europa.eu.int/idabc/en/document/5542/194
2.行動計画の全文:http://ec.europa.eu/information_society/activities/egovernment_research/doc/highlights/egov_action_plan_en.pdf
******************************************************************************:

Copyright (c)2006 芦田勝(Masaru Ashida ). All rights reserved.No reduction or republication without permission.

 

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...