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英国における携帯電話利用約款の内容の適正化に関する監督機関の具体的取組み例

 


 今国会に「消費者契約法の一部を改正する法律案」が提出されている。同法律は平成12年5月に成立、翌年4月1日付で施行されているのであるが、その主たるたる内容は、事業者による不当行為(不当な勧誘行為、不当な契約条項の使用)があった場合に消費者は契約の取消や条項の無効を主張できるとするものであった。しかし、新規参入事業者も含め、悪質住宅リフォーム詐欺や違法なネットオークション等の詐欺商法問題が後を絶たないのが現状である。この理由にはわが国が取ってきた許認可型行政の取組みの限界の問題もあろうし、苦情への迅速な対応機関の対応の整備不足、さらには処罰内容の軽さなどが指摘されている。

 このようなことから、今般上程された一部改正法案は、①同種の被害が多数発生する警告が生じていること、②事後的救済のみによるのでは、被害の急速な拡大に有効性に欠くというものである。そこで一定の消費者団体に、事業者の不当な行為に対する差止請求権を認める制度(消費者団体訴訟制度)の導入を目的とするものである。去る5月5日付の本ブログでも紹介したとおり、今後わが国でも集団訴訟の提訴だけでなく、米国のように集団訴権の濫用抑止・法制整備等の問題も出てこよう。

 今回紹介する「約款」適正化についても、消費者保護制度の重要な検討事項として例えば「国民生活審議会」において過去3次(第8次、9次、11次)にわたり個別業種ごとの個別約款の内容につき、適正化の提言を行ってきている。特に第8次の「消費者政策部会報告」における約款適正化の一般基本要件として挙げられている内容についてはグローバルな内容と思われる。
(筆者注1) 

 しかし、実態的にこれらの改善は行われているのであろうか。今回は、携帯電話会社の契約約款を例に取り、WatchdogであるOfcom(通信・メディア庁)(英国の「2003年電気通信法(Communications Act 2003)」に基づき5つの機関が統合され、2003年12月に稼動した電気通信・放送分野における単一の独立規制・監督機関) 
(筆者注2)が、Hutchison 3G UKおよびやUK Onlineの2社に対して「1999年消費者契約における不公正条件に関する規則(The Unfair Terms in Consumer Contracts Regulations 1999:以下「規則」という) (筆者注3)に基づき行い、本年5月に公表した一言一句の指導内容をもとに、具体的に約款内容がどのように改正されたかを後者を例に検証する。なお、Ofcomの指摘項目は全部で26項目あり、今回は5項目のみ紹介する(最後に、本件についてのOfcomの報告内容のURLとUK Onlineの改訂約款のURLを記しておいたので参照されたい。わが国の企業にとっても参考となる実務的な内容といえる)。

 今回取り上げた約款問題は、急速に拡大するインターネット等を介した電子商取引のトラブル防止策として電子商取引法の法制整備とともに優先課題である。総務省、経済産業省、公正取引委員会等わが国の「Watchdog」の具体的な取組みを期待する。


1.本約款の適用対象
UK Online が提供するインターネットサービス、ブロードバンドサービス、オンラインメールサービスについて定めるものである。
〔Ofcomの問題指摘①〕
総則3項で「本サービスへの加入にあたり、消費者は以下の契約条件(terms and conditions)の内容を理解・承認し、同意する」とあるが、これは規則の附表(schedule)2()にいう「潜在的な不公正(potentially unfair)」に当たる。すなわち、このような文言自体、消費者がすべての約款内容を読解する適切な機会を認めないことになるからである。


〔UK Online の修正文①〕
 これらの契約条件は、都度更新される「公正利用規定(Fair Usage Policy):www.ukonline.net/fup」および「利用規定(Acceptable Use Policy):www.ukonline.net/aup 」と併せて読み込んでください。お客様が利用するサービスは合意内容に基づき管理され、お客様が本サービスの利用にあたり、十分な注意をもってこれらの条件につき読まれることを期待します。

〔Ofcomの問題指摘②〕
総則5項で「本約款に定める契約条件はあなたの制定法上の権利に影響を与えない」
とあるが、規則7条にいうにいう潜在的不公正に当たる。すなわち、「制定法上の権利(statutory rights)」は法律用語であり、平易かつ理解しやすい用語ではない。


〔UK Online の修正文②〕
これらの契約条件は、法律に基づくお客様の権利に影響を与えません。もし、お客様が内容についての助言を求めるなら、当社は助言が可能な機関として「Citizens Advice Bureau」(筆者注4)のお客様の住所地の地方支部をご紹介します。(この修正についてはまだ行われていない。)

〔Ofcomの問題指摘③〕
2.4項において「UKOnlineは所与の時間内に通信サービスの提供を行うべく努力するが、仮に遅延した場合、同社は責任を負わない。」とある。この内容はサービスの遅延に対する事業者の責任を排除するもので、規則の附表2の1項(b)の潜在的不公正に当たる。
〔UK Online の修正文③〕
当社は、時間内に通信を行うよう努力(endeavour)します。

〔Ofcomの問題指摘④〕
2.7項(修正後では2.8項)では「仮に消費者がブロードバンド・サービス用の機器や送付の詳細につき配達の受取りができなかったり、配達そのものが不可能となった場合、UK Onlineは同機器を保管し、最終的な受領にかかる費用は消費者負担とする」とあるが、これは規則の附表2の1項()の潜在的不公正に当たる。すなわち、消費者にとってどのような負担があるのか指示がないことは好ましいものでなく、したがって消費者は契約の締結前に十分に理解する機会がないままに条件に同意することになるからである。


〔UK Online の修正文④〕
お客様がブロードバンド用機器を注文された場合で、仮に配達に失敗したりその配達内容の詳細につき誤った結果、送付に失敗した場合、当社は同機器を保管します。



〔Ofcomの問題指摘⑤〕
2.8項(修正後では2.10項)では、UK Onlineが提供したブロードバンド用機器について試験した結果、仮に消費者に届いた機器自体に欠陥があった場合、消費者はUK Onlineにその旨の通知が求められている。もし、欠陥の原因が同機器の製造業者の保証にかかる場合UK Onlineは代替品を提供するとある。このような条項の内容は、消費者に欠陥内容の特定までを求めるもので、規則附表1項()の潜在的不公正に当たる。すなわち、メーカーの保証内容がどのようなものでまた修理のために必要となる費用の問題が明らかになっていない。
〔UK Online の修正文⑤〕
・・・・仮に消費者に届いた機器自体に欠陥があった場合、当社の技術サポートチームにご連絡ください。同チームが同機器につき欠陥があり、メーカー保証(一般的な不具合や製造過程における欠陥のみ適用があります)がある場合、当社は機器や部品の交換を提供します。お客様は直接同チーム宛機器や部品を返送してください(筆者注5)。なお、欠陥のある部位が特定できない場合は、別途の料金負担(公正かつ合理的な金額の範囲)が生じる場合があります。
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(筆者注1) 内容は以下の通り網羅されている。インターネット取引の普及を前提とした見直しとその徹底が急務であろう。
1.適正な約款の基本的要件
①公平性の確保。
②解釈に幅が生じないような規定であること。
③取引実態と約款の内容とを一致させること。
④理解しやすい内容への配慮
 ・専門的な法律用語の使用は避ける。やむを得ず使用する場合は分かりやすい解説をつける。
 ・活字の適切な大きさを確保。用紙と活字のコントラストの配慮。
・簡潔な内容。冗長な説明の排除。
・目次や見出しなど、色刷りなどによる重要事項の強調。
⑤約款内容の書面による事前開示
2.約款条項の適正化の一般原則
約款内容に盛り込むべき項目内容は次の通りである。
(1)契約の成立
①契約の成立(申込・成立時期)
②事業者の承諾の留保
③クーリング・オフの説明
④消費者の申込撤回に対する損害賠償の内容
(2)消費者の権利・義務
①消費者の権利の内容
②消費者の義務の内容
(3)債務不履行
①事業者の債務不履行時の扱い(損害賠償、消費者からの契約解除、解約補助者の責任)
②消費者の債務不履行(損害賠償、事業者からの契約解除、期限の利益の喪失)
(4) 契約内容の変更・解消
①事業者からの変更・解消
②消費者からの変更・解消
(5)解約当事者の変更
①契約上の地位の交替等
②事業者の債権譲渡等
(6)債権の保全
①事業者の債権の保全(期限の利益の喪失、担保)
②消費者の債権の保全
(7)危険の負担
(8)その他(裁判管轄、抗弁の切断)
http://wp.cao.go.jp/zenbun/kokuseishin/spc08/houkoku_b/spc08-houkoku_b2-1_2.html

(筆者注2)“Ofcom”は、情報通信産業の統合的な規制・監督を目指すため、放送を担当する「独立テレビジョン管理委員会 ( Independent Television Commission:ITC ) 」、放送番組を規制する「放送基準委員会 (Broadcasting Standards Commission :BSC) 」、通信規制を担当する「通信委員会 (Office of Telecommunications :Oftel)」 、民放ラジオ放送の免許を所管する「ラジオ委員会 (Radio Authority :RA)」 、電波の周波数割当てを担当する「無線通信局 (Radiocommunications Agency :RCA) 」の5つの規制・監督機関を統合し、その機能を引き継ぐ機関として2003年12月29日に設置、機能を開始した。
 なお、英国における通信メデイア規制機関の歴史的経緯については確認できる専用サイト“Regulator Archives”がある。

(筆者注3) Ofcomのこれらの指導の法的根拠は「1999年消費者契約における不公正条件に関する規則(The Unfair Terms in Consumer Contracts Regulations 1999)」である。
http://www.opsi.gov.uk/si/si1999/19992083.htm

(筆者注4)Citizens Advice Bureauは、英国内に約3400箇所のアクセスポイントを持ち、また21,000人以上のボランティアを有する基金援助に基づく公認慈善事業団体である。毎年約530万件の多種の消費者問題解決に取り組んでおり、全国機関は情報システムの構築、ボランテアの教育等を行っている。
http://www.citizensadvice.org.uk/macnn/index.htm

(筆者注5)わが国の常識では、「着払い」まで記載すると思うのであるが。

〔Ofcomの報告書のURL〕
http://www.ofcom.org.uk/bulletins/comp_bull_index/comp_bull_ccases/closed_all/cw_887/
〔UK Onlineの改訂利用約款のURL〕
http://www.ukonline.net/footerpages/producttermsinc.php?sso_auth=0
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