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英国政府は「2006年消費者信用法」の今後2年にわたる具体的施行の総合計画を公表

 


 2006年5月25日に貿易産業省(DTI) (筆者注1)担当大臣イアン・マッカートニー(Ian McCartney)は、2006年3月30日に国王の裁可を得て成立した「The Consumer Credit Act 2006」(1974年消費者信用法の大幅な改正法で、主たる改正点は、①貸手・借手の間の公平性、②与信取引の透明性の確保、③より競争的な信用市場の創造であるとされている)の今後2年間にわたる 具体的施行スケジュールを公表した。

Ian McCartney 氏

 わが国では、消費者金融問題をめぐる自民党の貸金業規制法の改正、新規参入規制論議や金融庁が取りまとめつつある有識者懇談会(正式には「貸金業制度に関する懇談会」)の結論が注目されるところであるが 
(筆者注2)、他方でこれらの問題は個人で解決するにはあまりにも社会的影響が大きいともいえる。その意味で5月31日に可決成立した「改正消費者契約法」に基づく適格消費者団体による差止請求や損害賠償請求訴訟の取組みの行方も併せて注目しておく必要があろう。(筆者注3)  

 本ブログは2006年6月に初めて取上げたものであるが、今回
(筆者注1)を追加した関係で日付等を更新した。

1.2006年消費者信用法の主な改正点 (筆者注4)
(1)消費者保護の観点から、旧法(137条から140条)が定めていた「不当(extortionate)な与信テスト」の債務者による立証責任を排除し、主観的不公正さに関するテストの創設により、消費者がより簡単に不当に高い金利を負担していることを証明する「unfair credit test」に基づき提訴できることとした(140条A,B項)。この場合のunfairの事実不存在の立証責任(burden of proof)は貸し手側にある。

(2)消費者信用業者に対する法規制(監督制度)の強化として公正取引庁(OFT)が許認可機関となり、違法業者を消費者信用市場から排除する(24条A項)。また一定額の免許手数料、更新料が課される(6条A項)。

(3)旧法では、消費者金融や労働契約に基づく与信契約(従業員が雇用者からの借入れ)について、その融資目的が事業性と否とに拘らず適用された。改正後も、25,000ポンド(約515万円)以下で全部又は主たる目的が事業性のもののみ旧法が適用される。

(4)旧法は個人向け(個人事業主、権利能力なき社団、2名から3名からなる組合を含む)融資額が25,000ポンド以下の融資のみ適用するとしていた旧法から原則そのキャップを撤廃するとともに、個人(individuals)を定義から個人事業主などを排除し、個人のみの限定した(189条1項 )。すべての借り手が保護対象となる。また欠陥のある契約内容についての法執行のあり方につきより適切な取組みの手段を提供する。

(5)改正法は、債務者に対し定額信用供与契約(fixed-sum credit agreements)に基づき年1回返済額通知(annual statement)の送付を義務付けた(77条A項)。定額与信には①一定の与信期間、②定額、③分割払い、④条件付売買・与信契約が含まれる。このような規定がおかれた結果、この期間内に通知義務が怠った場合、債務者は金利の支払いや返済を強制されることはないことになる(既存契約についても適用される)。

(6)与信業者に2回連続した債務者の未返済後にOFTが制定した督促(arrears)または債務不履行(default)通知( notice)が義務化された(86条A項)。同通知を怠った場合、貸し手は契約に基づく法執行が出来ないし、また債務者は金利の支払い義務が生じない(86条D項)。

(7)金融オンブズマンによる裁判外紛争解決(ADR)が提供される。

2.今後の施行計画
(1)2007年4月以降・・借り手にとって前記「不公正テスト」規定が適用されるため、不公正に対する裁判への取組みが保障されるなど大幅な改善が可能となる。
 また、同月から消費者は金融オンブズマンによるADRが可能となる。

(2)2008年4月以降・・貸し手において与信口座の現状に関する定期的な通知義務が発生し、一方、与信事業者にとっても円滑な免許の取扱いが可能となる。

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(筆者注1)英国の産業界育成の中心的である貿易産業省(DTI)は1983年に設置され、2007年6月まで機能してきたが、翌7月17日に「ビジネス・企業・規制改革省(BERR:Department for Business, Enterprise & Regulatory Reform)」に改組され、さらに2009年6月5日に内閣改造に伴い「イノベーション・大学・技能省(DIUS:Department for Innovation, Universities and Skills)」とBERRが統合した「ビジネス・イノベーション・職能技能省(BIS:Department for Business,Innovation and Skills)」が創設されている。

(筆者注2) わが国の消費者金融についての法規制を見ておく。(1)金利については現行2つの法律がある。「利息制限法」では、元本の額により年率15~20%の金利を上限に決めている。それを上回る金利は無効だが、罰則はない。一方、出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)では上限金利を29.2%(平成12年6月に40.004%から改定施行)まで認め、違反には罰則(5年以下の懲役若しくは1千万円、法人の場合は3千万円、併科もある。なお、Allaboutで横山光昭氏が法人の出資法違反の罰金額を最高1億円と説明されているが、これは貸金業規制法(貸金業の規制等に関する法律)違反の場合(51条が罰則規定)である。念のため)を設けている。このため実態的に貸金業者は利息制限法を無視し、出資法の上限金利にほぼ張り付いた金利設定を行っている。(2)さらに、問題とされているのは、業法である貸金業規正法43条の「みなし弁済規定」である。同条は①貸主が貸金業登録業者であること、②借主が利息として支払ったこと、③借主が任意に支払ったこと、④17条にいう書面(契約書面)を交付していること、⑤18条書面(受取証書(領収書))交付していること、これらの要件をすべて充たすことを要件として利息制限法を上回っても出資法上限金利以内なら有効なものとされる点である。実際、みなし弁済規定を厳格に守っている金融業者はまずいないといってよく、また他借り手が貸金業者に金利を下げて元本の返済に充てたいといっても簡単に応じることもまれであろう。結局、簡易裁判所への「特定調停申立て」や裁判所を通さずに弁護士や司法書士に債務者との交渉を委任する「任意整理」さらには訴訟にまで及んでいかねばならないケースが多いのが現実である。

(筆者注3) 今回の消費者契約法の一部改正の検討の前提として、例えば平成16年9月に内閣府国民生活局は「諸外国における消費者団体訴訟制度に関する調査」を公表している。今般のわが国の団体訴訟制度自体、米国におけるクラスアクション制度やEU各国における消費者団体訴訟制度が下敷きになっていることは間違いなかろう。 http://www.consumer.go.jp/seisaku/cao/soken/file/kaigaihoukoku.pdf

(筆者注4) 改正法の内容についてはDTIのサイトの解説については、Q&Aも含め今一説明内容が抽象的である(金融庁の有識者懇談会の第7、9、15回資料でも説明不十分)。したがって英国書簡局(内閣府の1機関で以前は「Her Majesty’s Stationery Office」であった。公的部門の法律等情報を統括的に管理する中央機関)が作成した以下の改正内容の解説資料が最も正確で 旧法との関連が正確に説明されている。
http://www.opsi.gov.uk/acts/en2006/ukpgaen_20060014_en.pdf

〔参照URL〕
(1) http://www.dti.gov.uk/consumers/Finance/consumer-credit-bill/index.html
(2)Q&A; http://www.dti.gov.uk/consumers/Finance/consumer-credit-bill/FAQs/page24450.html

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